「おとボク」の萌え構造 >> 1. 第一章 >> 1-5. 第五節

 

女性をも虜にする構造 +

 「女性のお客様が他の作品に比べて異様に多かった」。『処女はお姉さまに恋してる』について、あるゲームソフト店の担当者が述べたことです。第一章も最後になりますが、このことに注目し、この作品が女性にもある程度受け入れられていることと、その理由について明らかにしていきます。

女性にとっても心地いい「主人公」設定 +

 このゲームの主人公・宮小路瑞穂は、本編中の種々のエピソードをあげるまでもなく、「『同性』から見ても綺麗な長髪と美貌(顔もプロポーションも)」で世話好き(過ぎてしまうケースも)、かつ「やるべきときはやる」*1人物として描かれています。しかも、女学生達のあこがれである「エルダーシスター」の座を得て、りっぱな「お姉さま」として振る舞っていきます。この設定は、女性がプレイする上でもいわば「心地よい」ものであり、主人公は女性から見ても「素直に好きになれる人物」になっています。
 このような設定がなされることは、いわゆる「美少女ゲーム」の世界ではほとんど見られないことであり、それゆえ通常の「美少女ゲーム」は女性にはあまり受け入れられないわけです。しかし、『処女はお姉さまに恋してる』では、「主人公萌え」に必要なものとしてあえて設定したその「ハイスペック」ぶりが、男性だけでなく女性プレイヤーにとっても心地よく受け入れられる、という「一石二鳥」状態を実現することとなりました。

 しかも、主人公は《「美少女ゲーム」的な部分》の項で説明したとおり、学院生活を通して、ヒロインたちとの触れ合いの中で精神的に成長していくことになります。この部分がさらに女性プレイヤーたちの心をつかんでいくこととなり、その「心地よさ」をさらに増幅することとなりました。この作品がお手本とした『マリア様がみてる』も女性ファンが大変多い作品ですが、まさにその「いいとこどり」をしたこの作品の主人公設定は、まさに「美少女ゲーム」の枠を上手に飛び越えた、ということができるでしょう。

「カップリング」――女性にとってはむしろ慣れた「萌え」構造 +

 この作品の「萌え」構造のもう一つのキーワード、それが「カップリング」です。女性が「カップリング」での「萌え」を多く意識するように、この作品では主人公とヒロインたち、あるいはヒロイン同士でのふれあいを通して、容易に「カップリング」を意識することができます。これは、女性オタクたちにとっては、普段から慣れ親しんだ「萌え」構造であり、当然まったく抵抗なく受け入れられることになります。男性にとっては複雑なこの作品の「萌え」構造も、女性にとってはむしろ当たり前の「萌え」構造である、ということは間違いありません。

 そして、この作品が男性「オタク」に与えた重要な影響は、従来女性の側が容易に得ていたこの「萌え」構造を、男性プレイヤーの多くもが、この作品に備わったいくつかの「関門」を越えていく中で、受容できるようになった、ということです。ひとつだけその証明事例をあげるならば、この作品に関して出てきた同人誌やネット上でのSSに、「主人公xヒロイン」の組み合わせだけでなく、「まりやx貴子」「美智子x圭」といったヒロイン・サブヒロイン同士の関係性や「カップリング」を意識したものがよく見られる、ということになりましょうか。

【コラム】公式ノベライズ『櫻の園のエトワール』――さらに女性に適した「入り口」 +

(※この項、2008年3月2日追記)

 現状のゲーム媒体(PC/PS2美少女ゲーム)からははいりにくい。アニメ化作品も美少女ゲーム原作であることを強調しすぎた面がある。コミカライズも結局はアニメ準拠。……女性にとっても親しみやすいコンテンツのはずなのに、結局「女性向け」という観点からはまったく振り返られてこなかった「おとボク」ですが、ついにその壁を破るにふさわしい条件が出てきました。公式ノベライズ『櫻の園のエトワール』の登場です。

 もともとは「おとボク」のオンリーイベント開催にあたり、原作シナリオライターの嵩夜あや氏*2が「自分の二次創作」として、「いと小さき、君の為に」「妹は騎士さま!?」の二作+プロローグ・エピローグ、という構成で発表したものです。会場内でもかなりの部数を売り上げたのですが、余り分を同人誌販売店に持ち込んだところ瞬殺となり、結局二回の増刷を経て「幻の同人小説本」扱いとなり、一時はヤフーオークションで万単位の値段で取り引きされていたものです。それが大幅加筆の上、2007年12月25日に商業出版されました。

 内容は厳島貴子ルートの後日談として、メインヒロインのうち「後輩組」である奏と由佳里、およびその後輩、そして生徒会メンバーたちの成長にスポットをあて、本編の主人公である宮小路瑞穂は「妹は騎士さま!?」にだけ登場、とすっかり「聖應女学院年代記」*3になっているのですが、原作の雰囲気・世界観を上手に再現して、かつ「えっちシーン」とは無縁*4という仕上がりとなっています。それゆえ、「おとボク」関連の展開品の中でも、もっとも女性の立場からはいりこみやすい入り口となっていることは言うまでもないでしょう。

 この展開がもっと多くの女性たちに知られ、「おとボク」人気がいままでと違うかたちで広まっていくとき、「おとボク」なるコンテンツには広くて新しい地平が広がってくるに違いありません。多くの女性によって新たな魅力が発掘され、同人シーンにも大きな変化が訪れ、それをコアな男性ファンも一緒になって楽しむ。そんな世界を想像するとき、私は大いにワクワクします*5。それができる数少ないコンテンツ、それが「おとボク」の本来の姿である、と強く思います。

 

 

 《「マリみて」みたいなエロゲー》が《男性オタクに「マリみて」様の萌え構造を受容させた》ことは、この作品が今後の「萌え」の方向性に与えた最大の影響であるといえます。それをわかった上で後続作品を作っていけるかどうかが、これからの業界側に問われていくわけですが、そのことについては第四章で触れることとします。

 

(最終更新日:2008-03-13 (木) 13:55:04.)



*1 ※えっちシーンのことはここでは別扱い
*2 男性です、念のため
*3 ご本人があとがきでそう書かれています
*4 女性同士の入浴シーンならありますが、いわゆる「百合」的シチュエーションも含めて「なし」
*5 筆者はこういった方向を実現するきっかけとして、「おとボクまとめサイト」の中で、「プロジェクト『お姉さま』を企画しています

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